プラスチック製組み立て玩具の「ブロック」。幼少時、夢中になって車や家を作った記憶を持つ人は少なくないだろうが、今、このブロックが「働くうえで求められる力の育成」の観点で、幼児教育から大学・企業まで広く注目を集めている。「集団における協調性」などを評価するため、宇宙飛行士候補者の選抜試験でも採用されたというブロック、その効果とは-。
◆集団生活での適性
「やったー、速くなった」「えーどうして、遅くなっちゃったよ」
昨年12月、約180組の親子が参加して神奈川県厚木市で開催されたイベント「レゴ教材を活用した科学学習体験教室」。ブロックで作製したウインドカーに扇風機で風を送り、走行タイムを競う実験に小学1、2年生が挑んだ。
「タイヤを大きくしたらいいのかな」「帆をたくさんつけたらいいのかな」。子供たちが試行錯誤する姿に温かいまなざしを注いでいたのは、神奈川工科大(同市)創造工学部の金井徳兼(のりかね)教授(家電工学)だ。
「クリエーティブな発想が求められる時代です。クリエーティブな発想は問題解決力を育てることがベースにあると考えています。ここにいる子供たちはその問題解決力を伸ばす貴重な体験学習をしています」
同大学では今年度、幼稚園児や小学生を対象に、ブロックを使った科学学習塾を開講した。「工科系の大学として理科好きの子供を育てたい」「大学の地域貢献」という視点と同時に、コミュニケーション力やチームワーク力、課題解決力などの育成を目標に掲げる。これらは今、若者に求められている「働くうえでの基礎的な力」だ。
「例えば、いろいろな意見に耳を傾けながら、『崩れにくいブロックの橋』の構造を考える。まさに、大学生を対象にした就業力育成で注目を集める『PBL(Problem<Project> Based Learning)学習』、問題解決型の学習です」
国際宇宙ステーション滞在が決まっている油井亀美也(ゆい・きみや)さんらが挑んだ平成21年実施のJAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙飛行士候補者選抜試験では、可動性を加えた教育用ブロックを使い、グループでロボットを作る課題が与えられた。JAXAでは「集団生活における協調性や適応性、情緒安定性などの適性を評価するためにブロックを採用した」としている。
金井教授の大学のゼミでも学生がマイクロプロセッサーを組み込んだ教育用ブロックを使い、ロボット製作に取り組んでいる。「ブロックを単なるおもちゃだと思わない方がいい。大学生にとっても、センサーを活用したモーター制御の仕組みなどを効果的に学び、課題攻略力やチーム力を身に付けるための効果的なアイテムになっています」(金井教授)
◆新人研修にも
レゴブロックを使った学習教室を展開するレゴ エデュケーション(東京都港区)の代理店、アフレル(福井市)によると、新人社員研修など社員教育の場で教育用ブロックを採用する企業が増えているという。
そのうちの一社、キヤノンソフトウェア(東京都品川区)では、新入社員がコンピューターのプログラミングを分かりやすく学ぶとともに、チームでロボットを作り上げることによって「集団における目標意識の共有の大切さ」に気づくツールとして採用したという。
レゴ エデュケーション・ジャパンの須藤みゆき代表は「問題解決力や課題発見力などを育てるためには、興味・関心の芽を伸ばすことが不可欠だと考えています。これは幼少時でも大人になっても変わらないでしょう。大学や企業でレゴブロックを採用いただいているのは、そのために有効な素材と評価していただいたからだと受け止めています。若者の働く力の育成が課題になっている今、大学や企業で採用されるケースが今後も増えると思います」と話している。
■「求めたい能力」は「粘り強さ」
産経新聞社は平成23年、全国の主要250社を対象に「大学生の新卒採用」に関するアンケートを実施した(回答率36%)。
「採用において学生に特に求めたい能力」を聞いたところ、最も多かったのが「粘り強さ」。以下、コミュニケーション力▽論理的思考力▽課題発見・解決力▽チームワーク力-と続いた。
(2013.2.17 産経ニュースから)